2023年5月14日、北海道・幌加内町に位置する「朱鞠内湖」の湖岸におきまして、釣り人がヒグマに襲撃され行方不明となる痛ましい人身事故が発生してしまいました。
改めまして冒頭に当事者の方、並びにご遺族の方に心より哀悼の意を表し、ご冥福をお祈り申し上げます。
釣りをやられる皆さまならつい先日に起こった突然の悲報に接し、多くの方が他人事ではない事象に悔やまれたことと思います。
私もこの訃報をニュースで見てとても驚きました。
たとえ本州より遠く離れた地である北海道であっても、レイクトラウトのすばらしさを共感できる身として、同じ「釣り」というアクティビティの魅力を知るものとして、非常に胸が詰まる思いでいっぱいになりました。
普段私が住んでいる地域は本州であり、ヒグマという野生動物とは全く縁のないところです。
ですが北海道で釣りをされる方や、本州でもヒグマに代わるツキノワグマが生息しているような山間部で釣りをされる方のために、微弱なりとも何か些細な情報でも共有できればとの思いから今回、筆をとらせていただきました。
2度とこのような痛ましい事故が起こらないことを心より願い、少しでも今回の発信がフィールドを駆け巡るアングラーの皆さまのお役に立てば幸いです。
もくじ
2023年5月14日に北海道・朱鞠内湖(しゅまりないこ)で起こったヒグマ人身事故について
まだこの事故の内容をご存知ない方もいらっしゃると思うので、簡単に概要だけお伝えさせて頂きます。
連日のメディアを通しての報道のとおり、去る2023年5月14日に北海道の朱鞠内湖の湖岸におきまして、1人の釣り人がヒグマに襲われ行方不明となる痛ましい事故が発生しました。
ナマコ沢と呼ばれる現地でも有名なポイントに午前5時半頃、釣り人は岸辺から渡船を利用して上陸しましたが、午前9時頃に再度渡し船が迎えに行ったところその釣り人の姿はなく、ウエーダーを口に咥えた1匹のヒグマが悔しくも目撃されたそうです。
翌日になり複数人のハンターが現場に出動し、そこにいた1匹の若いヒグマを駆除。
のちに個体の解剖の結果を経て、被害者の方が特定されたという経緯になります。
連日、インターネットなどのメディアを通じて詳しく報道されていますので、詳細はそれらを見て頂ければ把握できるかと思います。
朱鞠内湖というフィールド
トラウトアングラーの方ならご存知の方も多いかもしれませんが、過去に渓流釣り程度にしかトラウト釣りを楽しんだことのない私にとっては、「朱鞠内湖」というフィールドは初めて耳にするフィールドでした。
全国的にもあの有名な希少魚である「イトウ」が生息する、アングラーにとってはまさに聖地と呼ばれるにふさわしい北海道を代表するトラウトフィールドで、幻の魚「イトウ」をひとめ見ようと、毎年多くの方が訪れる人気フィールドであるとのことです。
秘境ともいえる入り組んだ地形が複雑に重なり合い、北海道の大自然が織りなすコントラストが釣り人の狩猟本能を心底から掻き立てる。
今回被害に遭われた方もそんな大自然と一体となったイトウ釣りの魅力に惹かれ、夢を追いかけ続けているアングラーの方だったのではないかと悔やまれてなりません。
目撃情報があるにも関わらずなぜ…
事故当日の5日前にあたる5月9日には、今回の現場から約1キロほど離れた場所でクマの目撃情報が発生しています。
栃木県宇都宮市から訪れたアングラーの方の目撃情報であるとのことですが、携帯していたホイッスルを吹いてもクマは全く動じず釣り人の方へ向かってきたそうです。
急いで渡船業者に連絡し迎えの船を要請したそうですが、そのあと、渡船業者が管轄する行政や警察にクマの出没情報を連絡しなかったとの指摘も一部あります。
のちに5日後、今回の惨劇が起こってしまうわけですが、なぜクマの目撃情報があるのに渡船を運航したのか、被害者の方はなぜ同じポイントに足を踏み入れてしまったのか、あるいはなぜ渡船業者は行政に連絡しなかったのか、といった不可解な問題点を事前に払しょくできていれば今回の事故は防げたのではないかと残念でなりません。
亜成獣(あせいじゅう)というクマの存在
今回の事故では、「亜成獣」といわれる年齢的に若いヒグマの存在が指摘されています。
通常、子熊は生まれてから1年ほど母クマと一緒に過ごし、早い個体ですと2年目くらいから親離れして単独で行動し始めるそうです。
生後2~4才くらいのこのような若くして親離れしたばかりの無知なヒグマは、好奇心が旺盛で怖いもの知らずな習性があり、常識を覆すような予測不可能な行動を引き起こす個体であることが多いそうなのです。
実際、今回の事故で駆除された個体は、体長が1.5メートルほどの若いヒグマであったそうです。
一般的に「成獣」と呼ばれるクマは、体調が約1.9メートル以上の個体を指すことが多いようなので、今回の事故に絡んだ加害個体は若くして無知であり、何にでも興味を示すような好奇心から行動に移した可能性が高いといえると思います。
北海道内におけるヒグマ人身事故のデータから感じること(過去10年)
北海道におけるヒグマが関係する過去の人身事故が気になり、この事故をきっかけに道の公式ホームページを参考までに調べてみました。
過去10年分のデータを引用して下部に掲載しておきますが、まず最初に気づく点として高齢者の人身事故が非常に多いということが気になります。
今や日本の第1次産業といわれる農林水産業に従事している方は、そのほとんどがミドル・シニア世代の方であるという現実からも、ご高齢の方が農業や林業に従事している最中に自然と事故が多くなるのでしょう。
<平成26年~令和元年の事故データ>
<令和2年~令和5年までの事故データ>
過去10年間では「釣り人」のヒグマ事故データはなし
実際は報告されていないケースなども考えるともう少し多いのではないかと思ってしまいますが、データとして残っている過去10年間における道内のヒグマ事故は37件。
そのうち釣りをしている最中に襲われたなどの記録は10年以内では残っていませんでした。
記録を遡って昭和37年以降からのデータも見てみましたが、それでも「釣り人」の事故は現在までで4件しかありません。
釣り人のヒグマに対する予防意識が相当高いことがうかがえる反面、このデータの少なさから心のどこかで「大丈夫ではないか」という過信が、今回の事故につながってしまったということもまた考えられるのかもしれません。
春と秋は山菜取りでの事故が多い
私たち人間にとって春と秋はもっとも過ごしやすい季節です。クマにとってもそれは同じで、ドングリなどの木々の実や山菜などが豊作になる年は、クマがエサを求めて活発に動くことが予想されます。
4月や10月にキノコ狩りや山菜取りでの事故が記録されていることからも、入山してばったり出くわしてしまい被害に遭われたなどのケースが考えられます。
夏場は農作業中か(狩猟は除く)。熊が人里へ降りてきている可能性あり
昨今は、北海道内でヒグマの個体数が増加傾向にあると聞きます。
1990年以降、冬眠中のクマを狙って行う春クマ駆除が禁止されて以降人を恐れなくなったヒグマが増え、人里へ下りてきている可能性を指摘する専門家の方もいらっしゃいます。
夏場はそういった個体が畑の作物を荒らしにきて偶然農家の方が出くわしてしまい、被害に遭われるようなケースが今後も想定されます。
春先は親子熊との遭遇率が高い
上記のデータからもわかる通り、とくに4月の春先に親子熊に出くわし被害に遭われているケースが目立ちます。
冬眠中に出産した母クマは、数匹の子クマを連れて春先に山の中を歩き回ることが予測されますので、山菜取りなどで入山される際には注意が必要です。
この時期の母クマは子熊を守ろうと普段よりも攻撃的になる恐れがあり、被害に遭う可能性も必然的に高まります。
興味深いヒグマの習性
ヒグマの習性や経験談などが語られた釣り人にとってとても参考になる貴重な動画を見つけましたので、その中の一部の情報を抜粋し以下に共有させていただきたいと思います。
語り手によるお話しのみの動画ですが非常に参考になり、具体的なシーンが解説されているので、北海道で釣りをされる方にとってはきっと役に立つと思います。
気になる方は、機会があればYouTubeより探して視聴してみてください(釣り部会さんで検索)。
北海道の釣り人の方が語る大変貴重な動画です。↑
釣り人目線で具体的な対策や事例が語られているので、ぜひ視聴してみてください。
容量の関係で上の画像からは動画に飛ぶことができません。
知っておくべき習性
個体にもさまざまな性格があり異なる習性があるため一概には言えませんが、実際に現場へ足を運ぶ猟師さんなどの話しによると、以下のような興味深い習性・経験談があるそうです。
逃げるものを追う習性
ヒグマに限らず、一般的にクマは逃げるものを追う習性があるといわれています。
関東ではツキノワグマの習性も同様に当てはまることと思いますが、もしも出会ってしまった場合はクマを刺激せず、ゆっくりと後ずさりしながら距離をとっていくのが望ましいとされています。
火薬の臭いを嫌う
動画の中でヒグマが火薬の臭いを嫌うお話が出てきます。
クマは嗅覚が非常に優れているので、いざという時に備え爆竹や蚊取り線香を携帯しておくことで人間の存在を相手に知らせることができるメリットがあるそうです。
音には敏感だが自然の音には反応しにくい
聴覚も非常に優れているそうですが、川の流れる音であったり笹などの植物が揺れる音、風の音といった自然の音に対しては、意外に気づかない一面も指摘されています。
このことが予期せぬクマとの遭遇の一番の要因になっているのかもしれません。
とくに雨が強く降っている日や風の強い日などは周囲の音がかき消されてしまうので、入山するのは控えておいた方が良いでしょう。
クマの通り道がある
キャンプやハイキング、登山などでよく林道で見かける「クマ出没注意!」の看板。
あまり気に留めずにやり過ごす方も多いと思いますが、これらの標識は、以前にクマが出没したところに設置されることが多いそうなのです。
クマは以前に通ったところと同じ道を通る習性があるようなので、山の中に入ってもしもこのような看板を見かけたらその場所は要注意かもしれません。
自分より大きな存在で判断を変える
非常に興味深いお話ですが、自分よりも体格の大きなものに対しては行動を変えたりすることがあるようです。
釣り人はロッドを振りかざして釣りをするため、クマから見てもその分大きなシルエットとして映るらしいのです。
そのことが、釣り人の事故が少ない要因と指摘する専門家の方もいらっしゃいます。
また、釣りをするところというのは川であったり湖であったりと、比較的クマからも見えやすい見通しの良いところである場合が多いです。
よって急なクマとの遭遇を避けられる要因ともなり得るわけです。
早朝や夕方に活動が活発になる
これはよく言われていることですが、一番気を付けなければならない事でもあると思います。
とくに釣り人がポイントに入る時間というのは、早朝や夕方といったマヅメ時間に集中することが多いです。
今回の事故も、早朝の5時半から9時頃までの早い時間帯で発生しています。
クマの活動が活発になる時間帯が、入渓したり退渓する薄暗い時間帯と重なることを良く肝に銘じておく必要があります。
小雨の日は林道を歩く場合がある
こちらも非常に興味深い事例ですが、雨が降っている山林などでは足場が悪いため、茂みを避けて林道を歩くクマを目撃することがあるそうです。
釣り人にとっては天候が優れない日などはよい釣果が期待できることも多く、はやる気持ちもあるかもしれません。
ですが、ランガンしている最中にばったりなんてことも十分に考えられますので、山中での渓流釣りに関してはやはり雨の日の外出は控えた方が得策かもしれません。
ヒグマが近くにいる可能性
動画の中ではヒグマが近くに存在するケースなども具体的に語られています。
ケモノの臭い
クマが近くに居たりすると何とも言えずキツイ「ケモノの臭い」がするそうです。
草木がなぎ倒されていたり不自然に穴が掘られていたりして周囲にケモノ臭が感じられたら、そこはさっきまでクマが居たことを意味する場所なのかも。
上流からの濁り水
実際に釣りをしていてこのようなシーンに出くわしたら本当に怖いと思います。
渓流釣りなどをしていて上流部から濁った水が流れてきたら、それはクマが近くにいる証だと伝えられています。
どういうことかというと、クマは川虫などを捕食するために石をひっくり返して川の中を漁ることがあるようなのです。
そのため、濁った水が上流から流れてくるようなことがあったらその時は要注意です。
釣りの際に携帯すべきもの
トラウトアングラーの方ならすでにご周知のことと思いますが、あまり釣りをされない方や、キャンプや登山などで山に行かれる機会が少ない方のために、念のためクマ除けとなるアイテムを参考程度にピックアップし洗い出しておきます。
全てを持ち歩くのは難しいと思いますが、偶然にもどれか一つが生死を分けるきっかけになるようなことがあるかもしれません。
これらのアイテムは腰にぶら下げたりカラビナに引っ掛けておくなど、すぐに手にできる位置に装着しておくことが重要です。
そうでないと茂みの中から急に襲ってきたりするクマの不意な襲撃には対応できなくなる可能性があります。
登山やキャンプでクマの生息が確認されている山へ出かける際は必ず携帯しておいた方が良いアイテム。
消音効果の機能が付いたものやカラビナ付きのものなど、昨今さまざまな種類のものが販売されています。
渓流などでは水の音で周囲の音がかき消され不意なクマとの遭遇も考えられるため、できるだけ音色が高音帯で遠くまでよく音が響くような鈴を選ぶのがおすすめです。
クマ除けスプレーを使う時は、最後の手段と考えてください。
本来、クマは比較的おとなしい野生動物と考えられていますが、今回の事故のような大惨事を招く個体も中には存在します。
鈴は予防目的で、撃退スプレーは生死を分ける最後の砦として、渓流釣りでは必ず携帯しておくべき必須アイテムです。
プロの猟師さん達は、山へ入る際は腰に鉈をぶら下げている方たちが多いと聞きます。
万が一クマとやりあうことが必要になった場合は素手では到底かなうはずもなく、鉈などの護身用のアイテムが必要不可欠となります。
スコップや鉈などの装備品で過去に危険を回避できた例もあるそうなので、山に行く機会が多い方やクマの密度が濃いエリアで活動される方などは必ず携帯しておくべきでしょう。
ちなみにクマ対策で持ち歩く鉈は、軽めのものよりしっかりと重みのあるものが推奨されています。
北海道の方では、入山前に爆竹を使用して人間の存在を知らせるケースもあるようです。
ですが実際にクマと直面した場合はどうでしょうか。
瞬間的にバックの中から火薬を取り出し点火する時間を考えると無理があるような気もします。
クマとの距離があり、自動車などのある程度安全な場所に避難できるケースであれば、爆発音を聞いた瞬間にクマの方から逃げていくことも考えられますし、効果的な手法といえるのかもしれません。
虫よけ対策にもなりますし、場合によっては至近距離にいるクマに対しては一定の効果を発揮するかもしれません。
クマ除けホイッスルの持参は、鈴とワンセットで考えた方が良いかもしれません。
入山中は、足場を失い万が一滑落するなどのイレギュラーな事故も想定されますし、ホイッスルを使うことで人間の存在に気づかせ、急なクマとの遭遇を避けられるリスク回避につながるかもしれません。
常にリスクを回避できる引き出しをたくさん持っておくことで、入山中の不安を払拭できる要因にもなり得ます。
その他に携帯ラジオや空のペットボトルなど、音の鳴るものを持参することで一定の効果があるとの声もありますが、反対に子熊などに対峙した場合、逆に好奇心を刺激しすぎて危ないとの乱用を避けるべき意見もあります。
今回ご紹介するアイテムは、決してクマに対して積極的に危害を加えることが目的であったり、捕獲を前提とした乱用目的のために使用することがあってはなりません。
あくまでも不意な遭遇から自身の身を守るための護身用として携帯するべきものとして推奨します。
ヒグマとばったり出くわしてしまうケース
源流トラウトなどは大きな岩を乗り越えて渓相を遡っていくため、注意が足元に集中しがちです。
また、上流域に近づけば近づくほど水流の音が激しくなって周囲の音はかき消されてしまいますよね。
そんなシーンで川幅が直角に曲がっていたり蛇行しているような見通しが悪いところでは、クマにばったりと出くわしてしまうことが多いそうです。
これからのトップシーズンに向けて山間部の渓流釣りに足を運ばれる方も多いと思いますので、くれぐれもこのようなシーンでは注意してください。
関東では奥多摩や奥秩父、湯川などの源流トラウトも注意
首都圏では奥多摩や奥秩父といった山間部でツキノワグマに対する注意が必要です。
ヒグマほど攻撃性はないとの見方もありますが、過去に人身事故が起こっているケースも多々あり油断はできません。
実際にどちらの場所でも注意喚起の標識は頻繁に見かけますし、栃木県の戦場ヶ原に位置する湯川では、木道などの近辺で頻繁にツキノワグマの目撃情報が発生しています。
私が湯川に出かけた時にも、シカの親子を近距離で見かけめちゃくちゃビックリしました。
湯川にはブルックトラウトだったかな?珍しいトラウトが生息していますし有名な場所ですので、これから行かれる方は万が一に備え十分なクマ対策をしたうえで足を運ばれることをおすすめします。
【朱鞠内湖ヒグマ人身事故】まとめ
少し長くなってしまいましたが今回の朱鞠内湖での人身事故の報道を受け、ヒグマの習性や過去のデータから気になる点などをまとめさせていただきました。
今回の事故で被害に遭われた方は、クマに対して非常に慎重な方で、釣りをする時も常に警戒心を忘れることのない言わばベテランと呼ばれる現地に熟知した方であったそうです。
にもかかわらず、このような痛ましい事故に巻き込まれてしまったのはいったい何が原因だったのでしょうか。
昨年4月には観光業者の誤った認識により、北海道の知床で遊覧船の大事故が発生しました。
今回の事故もまた、渡船業者のわずかな過信が重大事故の引き金となってしまっているような点では、2つの事故にどこか共通点があるような気がしてなりません。
観光資源の確保という概念もとても大切なことですが、改めて人命尊重が優先されるよう、今後、しっかりと企業や行政には明確な対策を立てて頂けることを心より願いたいと思います。
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憶測にすぎませんが、事前に目撃されていたクマが今回の加害個体であった可能性は十分に考えられます。
事故後の調べで現場に監視カメラを設置したそうなのですが、駆除された個体以外に他のクマの存在は確認されなかったそうです。